谷 誠
(編集責任者)
入澤仁美さんの訃報は、2022年の本誌第6号の編集委員会開催中にもたらされ、ただちに本記念特集号を作成することが決まりました。彼女が本誌編集に多大な貢献をされたことを、編集委員の誰もが感謝していたためです。その後、本記念特集号を編集するにしたがい、彼女の研究活動の広がりや重要性を、詳しく知ることとなりました。このような印象は、本号に寄稿してくださった、医学・倫理学・人類学・法学など、専門の異なる恩師の先生方の追悼文をお読みいただくことで、読者の皆様にもご理解いただけるのではないか、と考えております。優秀な若手研究者を失ったこと、本当に残念でなりません。
入澤仁美さんは、研究熱心であったのは言うまでもありませんが、人々のこころに寄り添う多彩な活動を展開されました。ベリーダンスを通じて高齢者に明るさをもたらす施設訪問、がんを患っている方やその家族と対話するメディカルカフェでの実践など、彼女自身の報告が本号に掲載されております。驚くべきことに、彼女の暖かい心遣いは、自身の余命が宣告されて後も、決して失われることはありませんでした。優しさと同時にきわめて強靭な精神力の持ち主であったことがうかがわれます。
しかしながら、彼女がみずからの研究を展開しようとしていた時期、その研究テーマに関係する研究者などからアカデミックハラスメントや脅迫の被害を受けた事実を指摘しなければなりません。その経緯は、本誌掲載の浜田道代先生の追悼文に詳しく記されております。彼女はこの重圧に負けずがんばり、医学博士を取得されました。しかし、がんによる厳しい身体的・精神的な苦境を乗り越えて為された仕事でありました。察するに余りあるとしか表現のしようがありません。
ところで、私たちは、みずからの欲求をむやみに追い求めることが環境悪化や資源浪費をもたらし、なおかつ他の人の人権を踏みにじる、そうした現実を反省しなければならない時代に生きています。そして今後、地球・生態系・人間の間において成り立っている絶妙な関係が安定的に維持され、人々が互いに争うことがない平穏な社会が実現されなければならないと思います。私はそう考えて縮小社会研究会に参加してきました。
入澤仁美さんが縮小社会研究会に参加されてその活動に多大な貢献をされたその理由、これは今となっては本人にお尋ねすることは叶いません。けれども、身体的あるいは精神的に苦しみを抱えた人々に寄り添うとのご自身の研究と縮小社会研究会の趣旨のつながりを感じられたからこそ、彼女は私たちと共に活動してくださったのだと思います。
読者の皆様には、彼女の貴重な研究成果と多彩な活動に加え、彼女が受けた苦難をも、本特集号の記述から読み取っていただければ、と願っております。それが、若くして亡くなられた入澤仁美さんに対する供養になるのではないでしょうか。
また、入澤仁美さんのご両親様から本特集号に対してご寄付をいただきました。厚くお礼申し上げます。
最後になりましたが、本特集号は、生前の入澤仁美さんのすばらしい活動を多くの方に知っていただきたいと願って編集しました。「この方に読んでいただけたら」というようなサジェッション、縮小社会研究会への参加ご希望などは、下記アドレスの事務局へお知らせください。
縮小社会研究会の下記ホームページもご参照ください。
「入澤仁美博士記念特集号」は、下記のメンバーで担当しました。
事業責任者:元田武彦
渉外責任者:松久寛・伊藤公雄
校正責任者:川崎尊康・五十嵐敏郎
編集責任者:谷誠